2020年9月27日日曜日

Less is More

タンスの中に大量の洋服を持ってはいないでしょうか。アイテムの数が多いと洋服のコーディネートの組合せは膨大な数になり、今日の気分やTPOに合ったのを探し出すのは至難の業で、毎日時間がかかってしまいます。また、収納スペースがより多く必要になり、その管理も大変です。今は着ていない、サイズが合わない、色が似合わないなど、長い間手にも取っていない洋服が、自分の労力・時間と家のスペースを消費してしまうのは無駄が多いと言えます。

それでは、洋服を持ちすぎないようにするためにはどうしたら良いのでしょうか。それは「本当に必要な洋服とは何か」と考えることです。

まず自分に似合うこと。形状、色、柄が顔立ち・体型に違和感なく合っているか鏡を見て確認してみましょう。次に生活に合っていること。今よく行く場所、よく会う人、よくすることを思い浮かべてみましょう。着ていて心地良いこと。生地の肌触りのよさ、サイズ感のよさ、動きやすさを確認しましょう。手入れがしやすいこと。普段着なら繰り返しの洗濯に耐えられるもの、特別な日のための洋服でも通常のクリーニングで対応できるものを選びましょう。

整理するときに残すもの、新しく買うときに選ぶものをこのように決めていけば、大量のタンスの中身は少しずつ減っていき、理想的な姿に近づきます。何年か先のことも思いながら長く着られる洋服を少しずつ揃えていきましょう。持っているものは少なくなりますが、好きなアイテムの中から様々に組み合わせて工夫するのは、かえって日々を楽しくしてくれるでしょう。

タンスの中身がすべて見渡せることで管理のための無駄な時間がなくなれば、ゆとりも生まれ、生活がより豊かになります。より少ないことはより豊かなことなのです。


2020年6月1日月曜日

混沌と混乱のファッション用語

若者の言葉の乱れはよく聞かれる話題で、眉間に皺を寄せて「まったくもってけしからん」という人がいる一方で、訳知り顔で「言葉は生き物だからしょうがないし、問題ない」という人もいます。よく使われるような言葉ほど、間違った使い方がそのまま定着してしまったり、意味が変わっていったりするようです。

洋服は毎日人間が着るものだから、とても身近な存在。ファッション用語も他と同じように意味の移り変わりからは逃れられません。さらにファッション雑誌が新しい言い回しを日々考えるもので、この変化に拍車がかけられています。昔だったら「細いGパン」だったものが「スキニーデニム」と呼ばれたり、「ズボン」と呼んでいたものが「パンツ」とか「トラウザーズ」とかに変わってしまったりするのです。

言葉が変化していく中で、極端に混乱を招く状態になってしまったものもあります。今日はそんな例として、「カットソー」「ニット」「プルオーバー」について考えてみたいと思います。

分類として、まず生地の作り方があります。たて糸とよこ糸で織って作る布を正式には布帛 (ふはく) と言います。これがいわゆる普通の布です。一方、糸を編み込んで作る布をニットと言います。布帛は斜め方向以外には伸び縮しないのですが、ニットは全方向に伸び縮みします。次に作り方があります。パーツを切断して、糸で縫い合わせる方法と、編み込みながら形を作る編み出しです。最後に、前の部分 (身頃) がボタンやファスナーで留められてて開くようになっているか、そうではなく被って着るタイプのものかです。それぞれの分類を図に示すと、2 X 2 X 2 = 8個の立方体になります。

ここで、ニットについて考えてみましょう。先程言いましたように、生地としてのニットは編み込んで作った布からできた洋服すべてを言いますので、下の図の左端が「ニット (生地)」です。一方、伝統的な製法として、編み込んで作ったもののみを「ニット (製造法)」と呼ぶこともあります。さらに、現代の普通の人、例えばお店の店員さんに「ニットありますか」と聞くと、ニット生地の中でも繊維が細いもの、伸び縮みするTシャツやもう少し厚手のものを「ニット (俗称)」と呼んでいることでしょう。ニットだけでもこのように、意味がたくさんあり、文脈によってちょっとずつ違います。


このような混乱は「カットソー」でも同じです。本来カットソーは文字通りCut (切る) してSew (縫う) したものと言うことはパーツを縫い合わせるタイプのものは全部「カットソー(製造法)」です。これには布帛かニットかは関係ありません。(なので99%の布帛の洋服はカットソーといっても差し支えないはずです。) しかし、同じように服屋さんでは意味が違って、ニット生地で、糸が細いものでパーツを縫い合わせるタイプのものを「カットソー(俗称)」と呼んでいるような気がします。


プルオーバーという言葉も混乱を呼びます。本来の意味からするとPull (引っ張る) Over (上から) ということは上からかぶるような服全体が「プルオーバー (形状)」となります。なので身頃が開かないものは全部「プルオーバー (形状)」ということになります。でもやっぱり服屋さんでプルオーバーといえば、ニット生地で糸が細く、カットソー製法で作られた身頃が開かないものを「プルオーバー (俗称)」と呼んでいる気がします。

このあたりでよしておこうとは思うのですがもう一つ。セーターというのもあります。通常セーターというと糸が太いニット生地の身頃が開かないものをセーターと呼んでいる気がします。伝統的なニットの話が上にありましたが、これも同様で、伝統的な製法のセーターは編み出して作ったもののことを指します。したがって最近売っている大量生産のセーターは「カットソー (製法)」なわけです。(逆に言うとわざわざカットソーという言葉ができたのは伝統から外れていたからかもしれません。) なお、カーディガンは身頃が開くセーターと考えれば良いでしょう。これにも歴史があるのですが、別の機会としたいと思います。

さて、この記事を書くにあたっては、インターネットで画像検索をして、どれがみんなの思っているXXXなのだろうというのを多数決で調べていました。英語で「Pullover」と調べると日本人が思うプルオーバーと大体同じものが出てきたのですが、ドイツ語で「Pullover」と調べると、かなりの確率でセーターが出てきました。どうやら国によっても違いがある・・・。浜の真砂が尽きるとも、ファッション用語の混乱は絶えないのでした。

2020年4月19日日曜日

ボタンにスポットライトを

洋服についているボタン。この部品は私達にとても身近なものです。洋服を洋服として成立させている、この小さいバイプレイヤーに今日はスポットライトを当ててみたいと思います。

ボタンの歴史は紀元前まで遡ります。布と布を留めたり外したりできて、より着やすく動きやすい衣服にするため、動物の骨で留め具を作ったのが始まりと言われています。ボタンは単なる留め具の機能だけでなく、豪華な作りのものは―古代エジプトから近世ヨーロッパまで―歴史上の権力者の権威を表す装飾品とされたりしました。このような歴史の中でボタンを作る技術は向上していったのですが、庶民にまで一般的になったのは産業革命後の話で、機械でボタンの大量生産ができるようになってからのことです。

日本は長くボタンの必要がない着物の文化でしたから、使うようになったのは洋服が伝来
してからです。広く使われるようになるのは明治維新後、陸軍と海軍の制服にボタンが取り入れられてからになります。ボタンの国内生産もこの頃から始まります。このように、ボタンの世界では日本は後発組と言えるのですが、現在は世界第三位の生産量を誇りボタン大国になっています。

現在のボタンの大半はプラスチックでできていますが、高級品はなんと言っても昔ながらの貝ボタンになります。南の島で採れる厚手の貝殻をくり抜いて、たくさんの手間をかけて作られる貝ボタンの輝きはブラウスやシャツに気品を与えます。木でできたボタンは素朴な温かみがありますし、布をかぶせたくるみボタンはもうそれだけでかわいい感じがします。変わった素材では牛乳のタンパク質を凝固させて作るカゼインボタンというのもメジャーではありませんが使われています。いずれにせよ、ボタンは洋服のイメージに大きく影響を与えているのです。

ボタンは形も様々ですが、普通に見かけるボタンは大別して3種類くらいです。まずは平ボタン。これは2穴と4穴のものがほとんどです。次にシャンクボタン。これは裏にループ状の金具がついているボタンのことで、先程出てきたくるみボタンもこれの仲間です。トグルボタンは水牛の角とか木でできた円柱状のボタンで2つ大きな穴が空いています。ダッフルコートの前を閉じるアレのことです。

ボタンの付け方も形状に合わせて色々ありますが、ボタン付け専用ミシンで付けるのか手縫いで付けるのかでまず大別されます。平ボタンは昔から機械化がなされていましたので多くが機械付けです。最新の専用ミシンでは一見難しそうなシャンクボタンも付けられるようになっています。

弊社東洋ソーイングでは単純な平ボタンは機械で付けることもありますが、コート用の厚手のものやシャンクボタンなどは手縫いで一つずつ付けています。手縫いで付けることによってボタンの形状に合わせた微調整ができ、仕上がりに無理がありません。これだけ機械が発達した世の中で不思議なようですが、やっぱり手縫いの仕上がりがデザインを引き立たせることも多いのです。