2020年6月1日月曜日

混沌と混乱のファッション用語

若者の言葉の乱れはよく聞かれる話題で、眉間に皺を寄せて「まったくもってけしからん」という人がいる一方で、訳知り顔で「言葉は生き物だからしょうがないし、問題ない」という人もいます。よく使われるような言葉ほど、間違った使い方がそのまま定着してしまったり、意味が変わっていったりするようです。

洋服は毎日人間が着るものだから、とても身近な存在。ファッション用語も他と同じように意味の移り変わりからは逃れられません。さらにファッション雑誌が新しい言い回しを日々考えるもので、この変化に拍車がかけられています。昔だったら「細いGパン」だったものが「スキニーデニム」と呼ばれたり、「ズボン」と呼んでいたものが「パンツ」とか「トラウザーズ」とかに変わってしまったりするのです。

言葉が変化していく中で、極端に混乱を招く状態になってしまったものもあります。今日はそんな例として、「カットソー」「ニット」「プルオーバー」について考えてみたいと思います。

分類として、まず生地の作り方があります。たて糸とよこ糸で織って作る布を正式には布帛 (ふはく) と言います。これがいわゆる普通の布です。一方、糸を編み込んで作る布をニットと言います。布帛は斜め方向以外には伸び縮しないのですが、ニットは全方向に伸び縮みします。次に作り方があります。パーツを切断して、糸で縫い合わせる方法と、編み込みながら形を作る編み出しです。最後に、前の部分 (身頃) がボタンやファスナーで留められてて開くようになっているか、そうではなく被って着るタイプのものかです。それぞれの分類を図に示すと、2 X 2 X 2 = 8個の立方体になります。

ここで、ニットについて考えてみましょう。先程言いましたように、生地としてのニットは編み込んで作った布からできた洋服すべてを言いますので、下の図の左端が「ニット (生地)」です。一方、伝統的な製法として、編み込んで作ったもののみを「ニット (製造法)」と呼ぶこともあります。さらに、現代の普通の人、例えばお店の店員さんに「ニットありますか」と聞くと、ニット生地の中でも繊維が細いもの、伸び縮みするTシャツやもう少し厚手のものを「ニット (俗称)」と呼んでいることでしょう。ニットだけでもこのように、意味がたくさんあり、文脈によってちょっとずつ違います。


このような混乱は「カットソー」でも同じです。本来カットソーは文字通りCut (切る) してSew (縫う) したものと言うことはパーツを縫い合わせるタイプのものは全部「カットソー(製造法)」です。これには布帛かニットかは関係ありません。(なので99%の布帛の洋服はカットソーといっても差し支えないはずです。) しかし、同じように服屋さんでは意味が違って、ニット生地で、糸が細いものでパーツを縫い合わせるタイプのものを「カットソー(俗称)」と呼んでいるような気がします。


プルオーバーという言葉も混乱を呼びます。本来の意味からするとPull (引っ張る) Over (上から) ということは上からかぶるような服全体が「プルオーバー (形状)」となります。なので身頃が開かないものは全部「プルオーバー (形状)」ということになります。でもやっぱり服屋さんでプルオーバーといえば、ニット生地で糸が細く、カットソー製法で作られた身頃が開かないものを「プルオーバー (俗称)」と呼んでいる気がします。

このあたりでよしておこうとは思うのですがもう一つ。セーターというのもあります。通常セーターというと糸が太いニット生地の身頃が開かないものをセーターと呼んでいる気がします。伝統的なニットの話が上にありましたが、これも同様で、伝統的な製法のセーターは編み出して作ったもののことを指します。したがって最近売っている大量生産のセーターは「カットソー (製法)」なわけです。(逆に言うとわざわざカットソーという言葉ができたのは伝統から外れていたからかもしれません。) なお、カーディガンは身頃が開くセーターと考えれば良いでしょう。これにも歴史があるのですが、別の機会としたいと思います。

さて、この記事を書くにあたっては、インターネットで画像検索をして、どれがみんなの思っているXXXなのだろうというのを多数決で調べていました。英語で「Pullover」と調べると日本人が思うプルオーバーと大体同じものが出てきたのですが、ドイツ語で「Pullover」と調べると、かなりの確率でセーターが出てきました。どうやら国によっても違いがある・・・。浜の真砂が尽きるとも、ファッション用語の混乱は絶えないのでした。